キャリアコンサルタントに聞く vol.71
Q:「半農半X」の転職は可能でしょうか。
東京生まれ東京育ち、今も東京で働いていますが、新型コロナウイルスの問題が取りざたされるようになってからは、感染リスクの高い都心部を離れたい気持ちが大きくなりました。自然に豊かな環境で自分が食べる分くらいは自給しつつ給与収入も得る、「半農半X」の暮らし方が理想ですが、そういった移住転職は可能でしょうか。
A:給与収入を確保するならば「農」と「X」のバランスを熟考しましょう。
ご質問ありがとうございます。
ご存じない方のために簡単に説明しますと、「半農半X(エックス)」は、半農半X研究所代表で総務省地域力創造アドバイザーも務める塩見直紀氏が90年代半ば頃から提唱している暮らし方です。
半農半Xという名称が示すように、自分の時間の半分を自給のための農業にあて、残り半分の時間のXはそれぞれ収入源としての生業にあてる、というものです。
「農的な暮らしがしたいが、専業で農業をするのは不安」という方は少なくありません。そんな方にとって、半農半Xという考え方は非常に共感しやすく、魅力的です。
質問者さんは地方移住を検討されているということですが、半農半Xの考え方は、農業人口の減少や高齢化などの課題を解決するキーワードとして、地方自治体でも積極的に取り入れられています。
たとえば島根県では、2010年より「半農半X支援事業」を開始し、島根県外からU・Iターンして半農半Xを実践する方に就農・定住に必要な助成する制度を設けています。具体的には、就農前の研修時と定住・就農初期の営農に必要な経費を、それぞれ最長1年間助成します。また営農を開始するために必要な施設整備についても支援しています。この助成制度を利用した半農半X実践者の方は、2021年3月時点で79名いるそうです。
これだけ前例があるということは、安心材料になるかもしれませんね。
ただし、質問者さんは就職して給与収入を確保することを希望されています。であれば、「農」と「X」のバランスを熟考していただきたいと思います。
安定して給与収入を得たいのであれば、「年間を通じて農業と並行できる」という点が転職の第一条件になります。それ以外の、仕事内容であったり、年収だったりという条件は二の次になります。あるいは、より農を優先して、農閑散期の冬季だけ別の仕事に従事するというやり方もあります。
参考までに島根県では次のような「X」の事例が紹介されています。
・酒造会社で酒造りに携わる「蔵人」
・庭の剪定作業を行う「庭師」
・ホームセンターなどの小売店に勤務
・冬季スキー場に勤務
・冬季に高速道路などの除雪作業に従事
いずれにしろ、自分の人生において何を大切にするかという価値観の大きな転換になりますので、覚悟が必要です。当初の思いを長く持ち続けられるか、自問自答することから始めてみましょう。
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